

優斗くんには、言っていないことがある。
カフェで偶然出会い、彼の童貞をもらってから、私たちは自然と関係を深めていった。
彼の純粋さに心がほどけていくようで、それはとても幸せな時間だった。
でも──
それとは別に、私は毎週金曜日の夜、決まった部屋で別の男に抱かれている。
50歳の、既婚の男。
名前は加納 雅彦(かのう まさひこ)。
彼との出会いは偶然じゃない。
大学3年のとき、インターン先で知り合った。
物腰は静かで、話すテンポは遅い。
でも言葉の一つひとつに“重さ”があって、妙に惹きつけられた。
最初に誘われたのは、仕事が終わった帰り道。
「君、話し方が落ち着いてるね。よかったら、食事でもどう?」
そのときから、何かに飲み込まれる予感はしていた。
彼は独特の空気をまとっている。
無理に支配することはしないのに、こちらが自然と従ってしまう。
“歳を重ねた男”にしか出せない、余裕と温度差のある視線。
ベッドの中でも、それは変わらなかった。
週に一度だけ、彼の借りているマンションの一室で会う。
そこには時計がない。
時間の感覚も、罪悪感も、すべてが麻痺していく。
「遥、おいで」
ソファに座ったまま、片手でスコッチグラスを傾けながら、私を手招きするその姿。
ネクタイを緩めたシャツの隙間から覗く鎖骨、熟れた男の香水とタバコの匂い。
それだけで、身体が自然に熱くなる。
「今日も、いい子にしてた?」
「うん……たぶん」
「嘘つけ。お前、また誰かの男、手出しただろ?」
彼は冗談めかして言うが、その声は低く、喉の奥で鳴っている。
手が、太ももを這い上がり、下着の上から撫でられる。
「……でも、そういうとこが好きなんだよ。お前の“汚れ方”がちょうどいい」
優斗くんは、まっすぐで、優しくて、本当にいい子。
彼といると、心が温まる。
でも──濡れるのは加納さんの指だけ。
荒く、意地悪に、私の浅ましさを引きずり出すような動き。
強引で、でもどこか悲しい背中。
そういう男に壊される感覚が、たまらなく、快感だった。
ベッドの上で、加納さんは言う。
「お前さ……あのガキのどこがいいの?」
「ガキじゃないよ。大事な子」
「じゃあなんで俺の前で、こんな声出してんの?」
言い返せない。
喘ぎ声が止まらないから。
「遥ってさ、他の男に“好き”とか言いながら、結局は俺で締まるんだよな」
一発、一発、彼の言葉が突き刺さる。
腰を掴まれ、脚を開かされ、好きなように扱われる。
でも……嫌じゃない。
むしろ、そこに“自分の本性”を見つけてしまう。
彼に抱かれながら、私はよく考える。
優斗くんのような真っ直ぐな子と、
加納さんのような“壊す側の男”と、
どちらといるときの自分が「本当の私」なんだろう?
優しくされて満たされるのも好き。
でも、蹂躙されて快楽に堕ちていくのも、嫌いじゃない。
ベッドの中で、加納さんが吐き捨てるように言った。
「どうせお前、どっちも選べねぇんだろ?」
私はただ、黙って笑った。
だって──図星だったから。
金曜日の夜。
ホテルのベッドで、加納さんが私の耳元で囁いた。
「遥、お前は誰の女だ?」
彼の腰の動きが激しくなるたびに、問いは強くなっていく。
私は何も答えず、ただ抱きつく。
中に残る彼の熱を、全部感じながら。
たぶん、私は誰のものにもなれていない。
だからこそ、誰のものにでもなれる女でいたいのかもしれない。
翌朝、加納さんより少し早くベッドを抜け出す。
キッチンでコーヒーを淹れ、カップを揃えて置いた。
ふと、スマホにメッセージが届く。
優斗くん:
「今日、会えますか?」
私は少しだけ微笑んで、メッセージを返す。
「うん。もちろん」
コーヒーの香りに包まれながら、思う。
“あの子には、絶対に言わない。”
この関係は、あの子がまだ知らない私の一部。
それでいい。
きっと、それが“大人の恋”ってやつなんだと思う。