

蒸し暑い夏の朝。
駅に向かうだけで汗ばむような陽気で、私は軽いブラウスと薄手のスカートという格好で家を出た。
「今日は電車、混んでないといいな」
そう思いながら改札を通る。
だけど、ラッシュの時間帯。ホームにはすでに人が並び、電車が到着すると一気に車内へ押し込まれるようにして乗り込んだ。
薄着のままの私の体に、周囲の人の熱気がじんわり伝わってくる。
それだけで、少し落ち着かない気分になった。
車内は想像以上に混んでいて、ほとんど身動きが取れない。
私は吊革に手を伸ばし、なんとかバランスを取った。
すぐ隣にはスーツ姿の男性。年齢は50代くらいだろうか。
落ち着いた雰囲気で、無言のまま前を向いている。
もちろん、特別に意識する相手ではない。
ただの“通勤電車の隣の人”。
そう思っていた。
――あの瞬間までは。
電車が急に揺れた。
つり革を握っていたけれど、バランスを崩し、肩と腕が隣の男性に触れてしまう。
「すみません…!」
小さな声で謝ると、彼は軽く首を振っただけで何も言わなかった。
だけど、私の胸の奥では別のことが起きていた。
(やだ、薄着だから…感触が伝わってる?)
ブラウス越しに触れた部分が熱を帯びていくようで、心臓が早鐘のように打ち始めた。
本当はただの偶然。
でも“触れてしまった”という事実が、想像以上に私を動揺させた。
それからの数分間は、妙に意識してしまって落ち着かなかった。
電車が揺れるたびに、距離が縮まり、肩や腕が何度も触れる。
(絶対に顔が赤くなってる…)
(気づかれてないよね?)
そう思えば思うほど、余計に体が熱くなる。
もし今、彼がこちらを見ていたら?
もし「薄着だな」なんて思われていたら?
考えるだけで恥ずかしくて、でもどこかで――少しだけドキドキしている自分がいた。
(こんなの、先生のときと同じだ…見られてるって思うだけで、胸がざわつく)
自分の中の“女”を意識してしまう瞬間に、思わず目を伏せた。
ようやく電車が目的の駅に着き、私は人の流れに押されるようにホームへ降りた。
ただ数分間、隣に立っていただけ。
それだけの出来事。
だけど胸の奥にはまだ、さっきの感触と高鳴りが残っていた。
「本当に…私、何を考えてるの」
恥ずかしくて、でもちょっとだけ心地よいざわめき。
誰にも言えない気持ちを抱えたまま、私は改札を抜けた。